先日、作家が自ら出版社を作るという可能性について書きましたが、そういった新しい試みはあちこちで行われているようです。
少し前ならサンクチュアリ出版、「ブラックジャックによろしく」で有名な漫画家の佐藤秀峰さんの「伝書バト」など。
さらに、東京に限らず、地方で小さな出版社を作り、自分たちが気に入った作品を世に出す。このnoteでも、そういった出版社の記事をよく見かけます。
その中で、特に今話題なのはやはり、田中泰延さんが作られた、ひろのぶと株式会社でしょう。
私も、田中さんが以前、青年失業家という肩書でやられていたTwitterのファンで、随分と楽しませていただきました。今から思えば、田中さんの一連のツイートはお世辞でもなく、ある意味一つの文学作品だったと思っています。
そして、そんなある日、「読みたいことを、書けばいい。」、「会って、話すこと。」の二冊を上梓されました。二つともベストセラーとなり、これで田中さんの名前を知った方も多いと思います。
そして、このたび会社を立ち上げられました。何の会社?かと思えば、出版社。その名も、ティファニー.Coにちなんで、ひろのぶと株式会社、さすがのネーミングセンスです。
会社の株式総会の動画もYouTubeで拝見しましたが、いい本を世に出したい、それと同時に作者の収入も保証していきたいという熱意を、ひしひしと感じました。これを見てわくわくしなかったクリエーターは一人もいないと思います。
そして、出版第一弾が、稲田万理さんの「全部を賭けない恋がはじまれば」(また後日、読んだ感想を書きます)という短編集です。これは、note上でコスモ・オナンという名義で書かれていた短編小説に目を留めた田中さんが、紙での出版化を決めた作品のようです。出版日の前から重版が決まっているということで話題になりました。
そして、次は、これもまたnoteで連載されていた田所敦嗣さんの「スローシャッター」という旅行記です。こうしてnoteから次々に作家が生まれるのを見れば、このnoteで一生懸命文章を書いている人に、ある種の希望をもたらすと思います。
前述の二冊は、大手出版社のように、お金をかけて新聞広告や雑誌などのメディアを使って、大々的にCMをかけるのではなく、Twitterや、YouTube、そして、このnote。SNSを活用しての宣伝方法がメインとなっています(違っていたらすみません)。
もちろん、SNSに限らず、まずは作品ありきの話で、やたらめったら宣伝をかければいいいという訳ではないのですが、こうした手法は、これからの出版社の経営、そして、出版社の宣伝の在り方に一石を投じるような気がします。
とにかく、いい本が、それらを求めている読者の手にちゃんと届き、その結果として売れて、書いた作者がそれなりの報酬(印税)が入る。可能ならば、それで生活ができるようになる(つまり、よりいい小説に書くことに専念できる)。
この状況は、かつては当然の姿でした。それが、いつの間にか、出版不況なのに出版数だけは右肩上がり。小説は死ぬほど売れない。専業作家は十人もいなくなった。こうした、まさに「悪貨が良貨を駆逐する」という、現在の出版業界の負の連鎖をぜひ断ち切って欲しいと思います。
そして、もう一度文学の世界が盛り上がっていき、いつか小説家になろうと悩んでいる人たちだけでではなく、私のような泡沫小説家も「ああ、小説でも食べていけるんだ」と思えれば、もっと、いい小説を書こうという熱意も湧いてくるし、アニメや、映画界などの他業界に流れていった人材が、文学の世界に戻ってきてくれるような気がします。
いきなり話は大きくなりますが、世界における少し前の日本映画のように、世界においても、日本の小説は面白いという評価に繋がっていくのだと思っています。
ではまた