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「趣味の欄」は「特になし」

眠ったり、ぼーっとしたり、雲を見たりと、気晴らしはいくつもありますが、特に「これ」といった趣味はありません。それは、小さい頃からずっとそうで、本当に人に言えるような趣味はありません。

そのことでずっと昔の就職活動の時、履歴書を書く場面で大変困りました。もちろん履歴書ですから、採用担当者に読まれた上で、関心をもってもらわなくてはなりません。大事な就職試験となればなおさらです。

履歴書の他の欄、長所、欠点の欄は簡単に書くことができました。テンプレートに従って書けばいいだけの話です。やはり問題となるのは「趣味」の欄です。しかし、そもとも論になりますが、趣味って何なんでしょう?

簡単に言ってしまえば、好きなこと、夢中になっていることでしょう。しかし、本当に趣味を他人に知られたいものなのでしょうか。
もちろん、野球、テニス、スキーなどといった、誰にでも胸を張って言えるような趣味ならいいでしょう。

おまけに「特技・資格の欄」でインターハイ優勝、スキーのバッチテスト1級合格などと胸を張れることならば最高です。それだけで、採用担当者は目を見張ることでしょう。

しかし問題は、本当に好きなことで、これまで全精力を傾けてきたことが、あまり人に自慢げに言えないこと(行為)だったときです。

もし、「バカラ」とか、「ナンパ」とか書いたら、人間性はわかってもらえるかもしれませんが、別の意味でアウトでしょう。

それでも何とか欄を埋めようとすると、だいたいの人は、黄金のスリートップ「読書」、「音楽鑑賞」、「映画鑑賞」を書くことになると思います(もちろん、中には本当に好きな人もいるでしょうが)。

しかし、今の採用面接では、「読書」が趣味でも、本の題名までは聞かれないそうなので、それだけでは何の人間性を感じ取ることができません。採用者も、たぶん心の中で「あー、つまり趣味がないってことね。若しくは言いずらい趣味ってことか」で終わってしまうでしょう。

だとしたら、採用者に好意的に人間性を理解してもらえるか、そのテクニカルの部分は、就職応援サイトに譲るとして、例えばこんなのはどうでしょう。

読書なら「ピーター・ドラッカー全集通読三回目」
音楽鑑賞なら「ヨーヨーマが演奏するバッハのチェロソナタを毎朝聴くこと」
映画鑑賞なら「ニューヨークが舞台のウディ・アレンの映画」
といったように。

これだと、採用者も具体的なイメージも浮かびますし、この人は本当に好きなんだなと思われますし、話も広がりやすいでしょう。

やはり、履歴書の趣味の欄は、一般の社会常識として、みんなが好感を持つようなこと(行為)でなくてならないという、共通認識を崩してはいけないのだと思います。
だとしたら、「歴史に残る純文学執筆」、「過激なアングラ劇団主宰」、「地下アイドル○○追っかけ」は、どう考えてもマイナスイメージでしかありません。これは、逆に具体的に書きすぎて駄目なケースでしょう。

私の場合、就職活動において、趣味の欄はおろか、面接の場においても、ずっと「小説執筆」と言い続けていました。
事実、本当に小説しか書いて来なかった四年間だったので仕方がありません。

自分としては、まったく恥ずべきことではなかったので、それで落とすなら落としてくれという気持ちでした(今思えば、完全に舐めていました)。
それで、何とか書類選考は通っても、おかげで面接で落とされ続けました。当時は、それほどまでに、小説執筆はマイナーで、ある意味、反社会的イメージを持たれていたのです。

こうして、面接で落ちまくっていたときでも、「小説執筆」というワードは、採用者にとっては案外気にはなるらしく、必ず面接の場でこう聞かれました。
「どういう内容のものを書いているの?」、「受賞経験は?」、「会社に入っても続けるの?」と。

しかし、これも嘘偽りなく正直に答えました。「純文学です」、「ありません」、「当然書き続けます」。極めつけは、冗談っぽい口調で「受賞したら?」と聞かれて、「辞めるつもりです」と即答したこともあります。これでは面接など通るわけがありません。

しかし、就職活動期間も終わりに近づいてくると、さすがにあせりが生じてきて、やむを得ず「読書」、「音楽鑑賞」、「映画鑑賞」に妥協するしかないかと考え始めました(落とされたほかの理由は考えずに)。

しかし、考えた果てに趣味の欄は「特になし」にしました。

これは、別に、現実に妥協したわけではなく、自分にとって「小説を書くこと」は、趣味どころではなく、ライフワークにしようと決めたからです。、「書くこと」自体を人生にしようと思ったのです。その決意を固めた結果が「特になし」でした。

そして、この「特になし」にしてからですが、「本当に趣味はないのですか?」と聞かれた時、「会社に入ってから、教わりたいと思います」、「まずは仕事を覚えてから」答えるようになりました。これは決して嘘でもなく、自分を偽ることでもありません。

それがなぜか、予想外にうまくはまったのです。次々と内定を得ることができました。これは、後から知ることになるのですが、就職面談の手法の一つとしてちゃんとあったらしいのです。

さらにこう付け加えると、好印象らしいです。
「御社にお世話になることができましたら、その時いろいろ教えてください」と。つまり、会社は趣味などにかまけずに、仕事をとにかく第一にして欲しいのです。会社色に染まって欲しいのです。
本当に、もっと早く気づけばよかったと思いました。

それ以来、普段の生活でも、他人から趣味は?と聞かれて、
「特にないです、いい趣味があったら教えてください」と答えるようになりました。ほとんどの相手は、喜んで一方的に話してくれます。話もはずみます。

趣味とは自分でああだこうだと決めつけるものではなく、過去を振り返って、仕事以外でもっとも時間を費やしていたこと(行為)かもしれません。

自分の趣味に迷ったとき。過去を振り返ってみれば一目瞭然です。一番時間を使っていたのが、あなたの趣味です。もし、それがスマホの課金ゲームでも、それでもいいじゃないですか。しょせんは趣味なんですから。

ではまた

仲村比呂
小説家
主に小さい子から読める物語を作っています。文学は最強です。

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