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おののきと人生相談

最近、オンラインサロンとか、私塾とかが流行っていますが、内田樹さんや、西野さんとか佐渡島さんとか、がっつりやっている人は、本当にすごいなあと感心してしまいます。

その道を極めた人が、自分の経験やノウハウとか、場合によっては生き方を伝授するわけですが、自分のようにおののき気味の、どこかふわふわした人間にとっては、鴨頭さんとか、中田敦さんとか、はっきり断言できる強さが正直うらやましいです。

それでも、自分もリアル世界でそれなりに歳を重ねてきて、何かと相談されたり、語ったりする機会も多くなりましたが、今でも相談されると「こうすべき」とか、「こうやったらいい」とかはっきりとは言えずに、「自分だったらこうするなあ」とか、「あくまで参考だけど、こうしたらどうだろう、違うかもしれないけれど」と、ごにょごにょ答えるだけで終始してしまいます。

それでも、何か一言言ってくれてと頼まれたら、とっさに思いつく偉人や有名人の言動で口を濁してしまいます。

そうなると聞いてきた相手は、たいがいがっかりした表情を浮かべるわけですが、こんな私でも、誰かから相談されたときには、「自分がわからないことは、絶対に語らない。想像でものを言わない」ということはマイルールとして決めています。

本気の相談というのは、当然ながらシビアなものであり、時には相手の人生を変えかねないので、聞かれた方も相談者以上に、真剣に答えなくてはいけません。
(余談ですが、最近こわいと思うのは、一見冗談めかしたたわいもない相談なのに、実は命がけで聞いてきているときです。それを見破るのは本当に難しい。)

作家の太宰治は、ファンから人生相談されると、かなり動揺したらしいです。「自分こそおののきながら、何とか息しているのに、そんな俺に生き方など聞いてくるな」と思ったらしいです。

彼も作家なので、何とかそれらしいことを答えるものの、自分が言ったことにどうにも自信がなくて、相談者が帰った後、言ったことが正しかったかどうか他人に聞いて、違うと思ったらすぐに当人を呼んで言い直したそうです(そういうところが、本当に素晴らしい)。

技術や知識の世界なら、答えは伝えやすいかもしれません。
しかし、「どうやって生きたらいいでしょう」のような相談は、本当のことを言えば誰にもわかりません。わからないからこそ、作家は長ったらしい小説やら映画などを作って「答え代わり」にしているわけですから。

個人的には、人生相談でも何でも、短くて耳障りのいい回答ほど信用ならないと思っています。

亡くなった遠藤周作も、真面目な宗教的な小説を書いてきたせいなのか、読者からヘビーな人生相談をされがちで、その責任と重圧に耐え切れず、自分はそんなたいそうな人間じゃない。ずぼらでなまけものの、しょうもない世捨て人だと思って欲しくて、狐狸庵先生シリーズを書き始めたと言われています。

当然、その内容は、それまでの遠藤周作のイメージを根底から変えてしまいました。おそらく、これでかなりかなり気分的に楽になったでしょう。それは、名もある二枚目俳優がイメージの維持に疲れて、急に身体を張ったお笑い番組に出る感覚に近いかもしれません。

何かを語りたい人は、弟子や信者を作ろうとします。それが今は、ちゃんとしたお金になるからです。ただ語ることをお金儲けするだけなら、それは別に商売の一つなので特に何とも思いませんが、何か生み出そうとするクリエーターは、自分の信者や弟子を前に堂々と人生訓や処世術を語るようになったら、どこか終わりのような気がします。

誰とは言いませんが、反逆のロッカーやバンドが、いつしか説教ソングや、生き方ソングを歌うようになってしまったように。

敬愛する夏目漱石も、太宰治も、吉本隆明も、信者や弟子のようなものを自分からは作りませんでした。太宰治も弟子入り志願を頑なに拒否していたのは、きっと、人に諭したり語ったりできる自信よりも、自らのおののき(人生に対する)を大切にしたかったのだと思います。

夏目漱石先生のように、話を聞きたがる若者(芥川龍之介等)が毎日のように家に押し寄せるので、執筆の妨げになって、結局は、週一開かれた木曜会のようなのが、サロンの自然な姿(あとは、プルーストの小説に出てくるようなサロン)だと思います。
その木曜会ですら、先生が語ると言うよりも、あくまでみんなで話そうよというスタンスだったようですが。

自らが、語る場や相手を作るのは、繰り返すようですが、かなり自信がある人だと思います。さらにお金を取れるというのは、尋常ではない強さと重圧に耐えられる人だと思います。

もちろん、彼らの言葉を必要として、救われる人が世の中がいるわけですから、それはそれで大切ですが、ここで再び、太宰治の言葉を持ってきて恐縮ですが、「しれっと悟ったようなことを言う奴は信じるな。俺の作品を信じろ」と。酔っていながらでも、そんなことを言えたら格好いいなあと思います。

ついでに、太宰が言った言葉、「弟子でいる限り師匠を超えられない」。このことは、とくに創作の世界に限った話ではないかもしれません。

ではまた

仲村比呂
小説家
主に小さい子から読める物語を作っています。文学は最強です。

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